どうなっているの?杉並の医療

杉並区医師会は区民の皆様の健康の保持・向上を目的に、各種健診・休日診療・予防接種・講演会・児童生徒の健康管理・救急及び災害時医療・介護認定審査等の事業を行政(杉並区)とまさに車の両輪の関係で実施しています。
このコーナーでは、杉並区医師会が医療現場から得られた情報を基に医療の専門家としての対策を考え、その具現化した内容を医療情報として皆様に発信することを目的としています。

【第13回】HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンについて[2021.05.19掲載]

HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種の案内が子どもに届きました。HPVワクチンについて教えてください。

 日本では、年間約1万人の女性が子宮頸がんに罹患し、約2,800人が死亡しています。近年、患者数・死亡者数ともに漸増傾向にあり、50歳未満の若い世代での罹患の増加が問題となっています。

 子宮頸がんの95%以上は、性的接触によるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因です。HPVはごくありふれたウイルスで、男女を問わず多くの人が感染します。性交渉の経験がある女性のうち50%〜80%はHPVに感染していると推計され、そのうち一部の女性が将来子宮頸がんを発症します。
 HPVに感染してから子宮頸がんに進行するまでの期間は、数年〜数十年と考えられています。発がん性HPVにはいくつか種類があり、特にHPV16型、HPV18型は、前がん病変や子宮頸がんへ進行する頻度が高く、スピードも速いと言われています。

 HPV16型、HPV18型の感染は、HPVワクチンによって防ぐことができます。平成25年4月に定期接種化されたHPVワクチンは、令和3年4月現在、厚生労働省から積極的勧奨は差し控えられていますが、定期接種としての位置づけに変わりはなく、公費助成による接種が可能です。
 令和2年10月9日に、厚生労働省から全国の自治体に対して、HPVワクチン公費助成対象者への個別案内が依頼され、HPVワクチンに関するリーフレットも大幅に改変されました。この依頼を受けて、杉並区は令和2年12月より、HPVワクチンに関する個別通知を再開しています。

 公費助成で接種できるHPVワクチンは2価と4価の2種類があり、いずれも6か月の間に3回の接種が必要です。2価ワクチンはHPV16型と18型に対するワクチンです。4価ワクチンは16型・18型のほか、尖形コンジローマの原因となる6型・11型の4つの型に対するワクチンです。これらのワクチンはHPVの感染を予防しますが、すでにHPVに感染している細胞からHPVを排除する効果はありません。したがって、初めての性交渉を経験する前に接種することが最も効果的です。

 定期接種の対象者は小学校6年生〜高校1年生の女子です。 高校1年生の女子が3回の接種を定期接種(無料)として完了するには、9月中に接種を開始する必要があります。(自費接種は3回で約5〜6万円)
 なお、4価ワクチンは令和2年12月に適応が追加され、9歳以上の男性への接種が可能となりましたが、令和3年4月現在、男子への定期接種は認められておりません。男子への接種により、中咽頭がん・陰茎がん・肛門がんなど男性のHPV関連がんの予防、女性へのHPV感染リスクを減らすことが期待できます。

 令和3年2月に、日本でも9つの型のHPV感染を予防し、子宮頸がんを90%以上予防すると推定されている9価HPVワクチンが発売されました。9価ワクチンを定期接種にするか、国の検討が開始されていますが、令和3年4月現在、実現には時間を要すると考えられています。
 9価HPVワクチンの定期接種を待って、公費助成で接種できる2価と4価ワクチン接種の機会を逃してしまうことがないよう、接種を検討されている対象者と保護者の方は、ぜひお近くの産婦人科へご相談ください。

 HPVワクチンは、接種により注射部位の一時的な痛み・腫れなどの局所症状が約8割の方に生じるとされています。また、注射時の痛みや不安のために失神(迷走神経反射)を起こした事例が報告されていますが、これについては接種直後30分程度安静にすることで対応が可能です。
 平成29年11月の厚生労働省専門部会で、慢性の痛みや運動機能の障害などHPVワクチン接種後に報告された多様な症状とHPVワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されておらず、これらは機能性身体症状と考えられるとの見解が発表されています。
 HPVワクチン接種の有無にかかわらず、思春期に多いとされる多様な症状を呈する患者さんに対し、複数の診療科が連携して適切な治療にあたるとともに、苦しんでいる患者さんをしっかりと支えることができるよう、診療体制のさらなる整備について取り組んでまいります。

 HPVワクチンにより、全ての子宮頸がんを予防することはできません。性交渉の経験が始まったら、HPVワクチン接種を受けていても子宮頸がん検診の受診は必要です。しかし、子宮頸がんは、ワクチン接種により原因ウイルスであるHPVに感染しないこと(1次予防)と、がん検診によるスクリーニングでがんを早期発見・早期治療し、結果的に子宮頸がんによる死亡を予防すること(2次予防)ができます。
 将来、先進国の中でわが国の女性だけが、子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落とすという不利益が拡大しないよう、杉並区医師会は、今後も最新の情報を区民の皆様に発信してまいります。


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