病気の話

【第41回】
糖尿病とは

(1)はじめに

 予備軍と呼ばれる耐糖能障害の状態を含めると約2000万人ともいわれる日本人の糖尿病患者数。さて、その糖尿病の正体はいったいどういう病気なのか、理解し難いところがあるのも事実です。
 医療関係者が参考にしている糖尿病治療ガイド2018-2019(日本糖尿病学会編 著)では、「(糖尿病とは)インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群である」と記載されています。 
 ここでは私達の体内で日々起こっている炭水化物・糖代謝を簡単に説明しながら、糖尿病という病気を理解していきたいと思います。

(2)糖尿病とはどういう状態なのか。

 毎日の食事で摂取した炭水化物は、消化されブドウ糖として腸管から吸収され、全身の臓器へと運ばれます。そして、運ばれたブドウ糖は臓器・細胞の活動にエネルギー源として利用されます(ブドウ糖の一部は、体脂肪に形を変えて蓄えられています)。ブドウ糖の血液中の濃度(以下、血糖値と記す)は、健康な状態では大体70〜140mg/dlから逸脱しないように保たれており、どんなに暴飲暴食しても何事も無かったよう血糖値は落ち着いています。まるで精密機器のように血糖値を制御してくれる体内物質のうち、唯一血糖値を下げる作用を持っているのが膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンです。インスリンは血糖値を正常範囲に保てるように余分なブドウ糖を肝臓・筋肉・脂 肪組織の中へ取り込ませることが出来るホルモンです。
 一方、糖尿病では血糖値を本来あるべき範囲に落ちつかせる事ができません。その原因の一つとしては、食生活の乱れ、運動不足などにより肝臓・筋肉・脂肪組織のインスリンに対する反応性が低下し、ブドウ糖を上手く取り込めなくなることです。もうひとつの原因は、膵臓自体の働きが低下しインスリンの分泌量が減っていってしまう(時には枯渇してしまう)ことです。このどちらか一方、または両方により、余分なブドウ糖が血中にいつまでも溢れることになり高血糖が続くことになるのです。この状態を表現したのが、「インスリン作用不足による慢性の高血糖状態」ということになります。
 さて、糖尿病が恐ろしい病気だと言われるのはなぜでしょうか。それは、インスリン作用不足により高い血糖値が持続してしまうことは、さまざまな現象を引き起こされるからです。
 まず、急激に高血糖の状態が起こると、のどの渇き、多飲多尿、急激な体重減少、そして、つかれやすいなどの糖尿病に特徴的な自覚症状を引き起こします。時に血糖値が1000mg/dlを超える異常状態になると意識障害に陥ることがあります。しばしば、肺炎、腎盂腎炎などの重症感染症を合併することがあり、即時の入院が必要になります。これらは急性合併症と呼ばれます。
 一方、糖尿病の治療は受けているものの治療目標に達していない場合や、糖尿病の可能性があるものの医療機関を受診していない場合でも正常範囲を逸脱した高血糖状態が慢性的に持続します。この場合は自覚症状を呈することは多くないため、しばしば放置されてしまいます。しかし、たった数年でもこの状態が続くことで全身の細小血管は直接的に障害を受けます。代表的なものとして糖尿病三大合併症といわれる糖尿病性網膜症(失明に至る場合があります)、糖尿病性腎症(人工透析に至る場合があります)、糖尿病性神経症(手足の先から始まるしびれなどの感覚異常を起こします)が有名です。さらに、空腹時は正常範囲に落ち着いていたとしても、食後の高血糖状態が続くだけで大きな動脈に動脈硬化症が進行します。動脈硬化症の結果、脳梗塞、心筋梗塞・狭心症、下肢動脈閉塞症などが発症することがあります。これらは急性合併症に対して慢性合併症と呼ばれています。これらが、「慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群」ということになります。
 近年、医学の進歩により急性合併症は克服出来つつありますが、慢性合併症は未だに重大な問題です。

(3)終わりに

 この10年余りの間に糖尿病に関する有効な新薬が承認・販売され、以前とは異なり、安全にかつ確実に血糖値を下げられる時代が到来しました。これからも新たな治療方法が出てくることが期待されています。しかし、糖尿病の治療には毎日の食事、適度な運動が欠かせません。これからも主治医の先生と二人三脚で上手に糖尿病と向かい合って頂ける事を願っています。
(なお、本稿は日本人に多い2型糖尿病を念頭に解説しました。)


 
令和元年7月
滝澤医院 (http://eifuku-takizawa.com/
 滝澤 誠
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