【第78回】
狭心症と心筋梗塞とはどういう病気か
症状と病態
狭心症とは心臓を栄養する冠動脈という血管が高度に狭窄して心臓に十分血流が行き渡らず心臓が悲鳴を上げる状態のことを言います。悲鳴を上げる場合、たいていは「胸が痛い」と感じますが、人によっては「左肩に違和感がある」、「息苦しい、息が吸えない感じ」など人によって症状の感じ方が異なります。これらの症状がどんどん悪化している場合には不安定狭心症といって狭窄病変が進行している可能性があります。不安定狭心症はやがて冠動脈が詰まって心筋が壊死してしまう急性心筋梗塞を起こしやすい状態なので、少なくとも入院して安静にする必要があります。循環器専門病院であればすぐに心臓カテーテルを用いた冠動脈狭窄を広げるバルーンとステントの治療を行います。不安定狭心症では薬物療法よりステント治療が明らかに有効です。
逆に狭窄病変が進行なく安定している安定型狭心症の場合、症状はほとんど労作で起こります。運動により心臓への血液供給の需要が増えますが、狭窄があると血液が需要に応えられず労作時のみ心筋虚血という状態になります。従って狭心症があるかどうかを調べるには、心電図をとりながら運動負荷試験を行います。近年は高齢者の狭心症が増えているために、運動が十分できないことがあります。その場合、冠動脈の狭窄を直接観察できる冠動脈CT検査や薬剤で負荷ができる心臓核医学検査(心筋シンチ)を選択することが一般的になっています。その結果、高度な狭窄病変や高度な心筋虚血が判明した場合には、薬物治療のみよりカテーテル治療を行うことが望ましいとされています。
図には示していませんが、冠動脈に狭窄がない狭心症があり、「冠攣縮性狭心症」といいます。これは突然、冠動脈が攣縮(血管が痙攣)して閉塞してしまう病態です。この発作が長時間続くと心筋梗塞になったり、悪い不整脈が出たりして死に至ることがあります。冠動脈病変が乏しいので形態診断ができませんが、胸痛の質的診断、発作の時間、患者の年齢などから専門医がこの病気を予想し、24時間装着して行う心電図検査で発作を見つけることがゴールとなります。それでも診断に難渋する場合には心臓カテーテルで血管痙攣を誘発する試験を行う場合がありますが、最近はあまり実施されていないようです。
狭心症になりやすい人
胸が痛いといっても、すべてが狭心症ではありません。胸痛患者の中で狭心症の方はごく一部です。循環器専門医は、発作の起こり方(安静か労作か)、発作の時間、胸のどの辺が痛いかなどを吟味して精査を行うか決定します。一般に狭心症にかかりやすい人は、年齢の高い人、危険因子を持っている方、具体的には糖尿病、高血圧、脂質異常(高コレステロール)、慢性腎臓病、喫煙歴のある方などです。糖尿病の方は症状が出にくい傾向があり、胸痛ではなく、胸の違和感や息苦しいというあいまいな症状が狭心症発作であることがあり、注意が必要です。たいていは労作で起こるものですが、安静で起こる場合には心電図で異常がでることが多いので症状が出ているときに医療機関を受診するとよいと思います。症状が治まっても心電図に所見が残ることもあります。
いずれにしても、狭心症や心筋梗塞は早めに対応すれば致命的にはなりません。胸が痛くて狭心症を心配する場合には躊躇なく医療機関、特に循環器専門医に相談してください。