病気の話

【第118回】
認知症と在宅医療―――住み慣れた地域で暮らし続けるために

◇まず知っておきたいのは、「もの忘れ=認知症」と決めつける必要はないということです。睡眠不足やうつ、薬の影響、難聴、栄養不足などでも、認知症に似た症状は起こります。一方で、軽度認知障害(MCI)の段階で生活習慣を整えることで、進行を遅らせられる可能性があることも分かってきました。大切なのは、変化に気づいた時点で早めに相談し、原因を確かめる事です。

◇近年、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβに作用する認知症抗体医薬(レカネマブ、ドナネマブなど)という新たな治療の選択肢が登場しました。これらは軽度認知障害(MCI)から軽度認知症の方に使用され、認知機能低下の速度を抑制する可能性が報告されています。しかしながら、定期的な点滴・画像検査が必要であること、ARIA(脳浮腫・微小出血)などの副作用リスクがあることから、慎重な適応判断をすべきと考えられています。

◇他にも、高齢者では急激な認知症症状の悪化に注意が必要です。「昨日まで普通だったのに急に混乱した」「昼夜逆転が突然ひどくなった」といった場合、脱水や感染症、便秘や疼痛など、別の病気が関係している事があり、早期受診により症状が改善することも少なくありません。

◇認知症に関しては、本人の訴えだけでなく、家族が感じている変化が重要な手がかりになります。「いつ頃から、どのような時に、どんな頻度で」「生活上何が困っているか」を整理して医師に伝えましょう。財布や薬の管理、料理や買い物など、日常生活の変化は診断や支援につながります。また、高齢者のせん妄にはポリファーマシー(多剤併用)が関与している場合もありますので、医師に相談し内服薬の整理を検討することが望ましいです。

◇認知症の在宅療養を支えるのは、医療と介護の“チーム”です。かかりつけ医が全身の健康管理を担い、必要に応じて専門医と連携します。訪問看護や薬局は体調管理や服薬支援を行い、ケアマネジャーは介護サービスを組み立てます。デイサービスや訪問介護は、見守りや活動の場を提供します。また、元気なうちに、治療や暮らし方の希望を本人と家族で話し合う事も大切です。

◇杉並区には、地域包括支援センター「ケア24」のもの忘れ相談や在宅医療相談調整窓口など、早期相談の入口があります。認知症は、本人や家族だけで抱え込むものではありません。新しい治療の可能性も含め、医療介護チームで密に連携し、地域全体で支えることが、住み慣れた地域で暮らし続けるためには大事なことだと考えます。


令和8年1月
まごころクリニック(https://www.magokoro-cl.com/
山口 優美

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