【第115回】
前立腺肥大症の基礎知識と最新治療
前立腺肥大症は、中高年男性に多くみられる尿トラブルの代表的な原因です。前立腺は膀胱の出口で尿道を取り囲んでおり、加齢に伴って肥大すると「尿の勢いが弱い」「残尿感がある」「尿意を催すと我慢できない」「夜間に何度もトイレのために起きてしまう」などの症状が生じます。放置すると、膀胱機能の低下や尿閉(おしっこが全く出ずに苦しい)、腎障害につながることもあり、進行性疾患としての理解が重要です。
前立腺肥大症は前立腺がんとは異なる病気で、前立腺肥大が”がん”に変化することはありません。ただし、前立腺がんの腫瘍マーカーである血清PSA値は両者で上昇することがあるため、鑑別には針生検が必要となります。
近年は低侵襲治療の進歩により手術療法の選択肢が広がっています。代表的なものが以下の三つです。
1. 経尿道的前立腺吊り上げ術(Urolift)
尿道を圧迫する前立腺組織を専用の糸で持ち上げ、尿道を広げる方法です。切除を伴わず、身体への負担や、性機能への影響が少ない点が特徴です。
2. 経尿道的水蒸気治療(Rezum)
前立腺内に水蒸気を注入し、熱によって前立腺を縮小させます。手術時間は5分程度で、身体への負担が少なく、射精・勃起機能を温存しやすい特徴があります。
3. アクアブレーション(Aquablation)
ロボット制御による高圧水流で前立腺を切除する最新技術です。日本には2025年9月現在 11台が稼働しています。手術時間が短く、術後の尿もれが少なく、射精・勃起機能の温存率も高いことが特徴です。
これらの低侵襲治療の登場により、従来懸念されていた術後合併症は大幅に減少しました。前立腺肥大症は生活の質に直結する疾患です。おしっこで生活に不便を感じている、家族に話しにくい、旅行を控えるようになった、など、思い当たる症状がある方は早めに泌尿器科へ相談することが大切です。地域の皆様に快適なおしっこライフを提供することが、私たち泌尿器科の使命です。
令和7年10月
東京衛生アドベンチスト病院(https://www.tokyoeisei.com/department/urology/zenritsusen/)
泌尿器科 加藤 大貴



















